ガラスの棺 第11話


カグヤに呼び戻出されたカレンは我が耳を疑った。

「・・・あの、申し訳ありませんが、もう一度説明をしていただけませんか?」

いや、きっと聞き間違いに違いない。
棺に眠るルルーシュを見た事で、まだ動揺していたのだろう。
だから変な聞き間違いをしたのだ。
でなければカグヤがこんな事を言うはずなど無い。

「ですから、ルルーシュの棺を、いえ、遺体をこちら側に引き渡す様ブリタニアと交渉を始めます」

やはり聞き間違いではなかったらしい。

「ルルーシュの遺体をですか!?」

なんで?どうして?と、カレンは驚きの声をあげた。

「そもそも、戦争が終わったのになぜ世界はまだ争っているのか、疫病が蔓延しているのはなぜかという話ですわ」

疫病?争い?
なに?なんなの?意味がわからない。とカレンは眉を寄せた。

「あれほどの悪を成したルルーシュは間違いなく荒御霊となっているでしょう。つまり祟り神と成り果て、この世界に災いを振りまいているのです」

真面目な顔で放たれた信じがたい言葉の数々にも驚いたが、それ以上に驚く事をカグヤが言ったため、カレンは慌てた。

「え!?ちょ、ちょっと待ってくださいカグヤ様!」
「なんですかカレン?」
「ルルーシュは災いなんて!あいつが皇帝になったのも、戦争を無くすために」
「それは、私たちがあの時勝手にそう解釈しただけで、実際はどうか解りませんわ」
「え!?」

あっさりと帰ってきた言葉に、カレンは驚きの声をあげた。
聞き間違い?いや、間違いなく彼女は言ったのだ。
どういう事?と、カレンは目を丸くしてカグヤを見つめた。

「私、ずっと考えておりました。スザクが生きていたのは、ルルーシュにとっては想定外だったのではと。聞いた話では、ランスロットには脱出装置がついていなかったそうです。ルルーシュがスザクを殺害するため、あえて装置を外していた可能性があります。ですが幸いランスロットが大破したのは空中ではなく、ダモクレス。そのお陰でスザクは奇跡的に生き延びたのです」

ルルーシュにとってスザクも邪魔でしかなかったはずだ。
ずっと敵だったのだから当然だだろう。
スザクもあれほど憎んでいたルルーシュに協力するなんておかしいのだ。
冷静に考えられる今ならわかる。
あの二人が共闘するなどありえないのだと。
和解する理由もないのだから。

「生き延びたスザクは自分が死んだ状況を利用することを思いついたのです。そしてルルーシュが所持していたゼロの衣装を手に入れたスザクは、ゼロとしてユーフェミアの仇を討ったのです」

ルルーシュが生み出した英雄。
悪を討つ存在。
それに討たれる事は絶望しかなかっただろう。
あの日のためにスザクは敵に、仇に跪いていたのだ。
今思えばユーフェミアの豹変はルルーシュのギアスによるもの。
ユーフェミアは本当に日本のために立ち上った慈愛の姫だった。
それを邪魔だと判断したルルーシュが操り、殺した。
スザクはそれを知っていたのだ。
だから、ユーフェミアの仇討ちのチャンスをずっと狙っていた。
人目につく場所で、大々的に殺せる時を。
ルルーシュは間違いなくそれに気づいていて、スザクの能力を最大限に利用してから殺す策を練っていたに違いない。
そう考えれば全ての辻褄が合う。
ロイドとセシル、ニーナも本当に脅されて協力をさせられていたのだろう。
ギアスを使わなければ部下すら持てない愚かな王。
それがルルーシュの本来の姿なのだ。

「ルルーシュは私達が思っていたような人物ではなかったのです。そして世界征服を成し遂げ、これからという時に殺された。その怨念が世界を歪めているのです」
「そんな・・・」

あり得ない話だった。
ロイドもセシルもニーナも、そしてスザクも今まさにルルーシュの遺体を守ろうと動いているのだから、彼らは間違いなくルルーシュの協力者だった。
だが、それを言うわけにもいかない。
カグヤの妄言だと言いたいが、言えない。

「日本では、荒御霊を手厚く祀る事で強力な守護神とするのです。ですからルルーシュの遺体をこちらで祀り、厄災を払うのです」

そのために神社を建立しなければなりませんね。

「で、ですが、ルルーシュの遺体はブリタニアがすでに埋葬しています」
「ですから交渉するのです。ブリタニアでは荷が重い様ですから、日本で祀りますわ、と」

上から目線の物言いにカレンはカチンと来た。
それが交渉をする態度なのだろうか。
だが解った事が一つある。
このままでは王家の墓にあるのが空の棺だと知られるのは時間の問題。
いずれガラスの棺の存在が知られるだろう。
ブリタニアが、いや、ナナリーがルルーシュの遺体をこちらに引き渡すはずがない。
そしてカグヤが引きさがる事は無いだろう。
この件には間違いなく扇も口を出してくる。

ゼロの正体を知り、その優しい願いを、思いを知ったはずの者たちは、今現在起きているあらゆる災いをもルルーシュの、死者の責任だと押し付けようとしている。
自分たちの力不足と、その傲慢さが原因だと考えもせずに。
そこにあるのは甘え。
口ではどう言おうと、その遺体を粗雑に扱い政治利用しても『ルルーシュならきっと許してくれるだろう』という思いが働いているはずだ。
自分は彼にとって特別なのだからと。

だが、ルルーシュがたとえ許したとしても
私たちは許さない。

これ以上、ルルーシュに罪を押し付けるなんて、そんな事させない。
彼にはこのまま静かに眠ってもらうのだから。
カグヤの言葉を聞きながら、カレンは唇をかんだ。

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